無人搬送車駆動主軸部不具合改善

背景

C社旧工場、新工場には自動搬送系が具備されている。旧工場では1992年の稼動開始から19年を経、新工場でも2001年の稼動開始から10年を経過している。両工場で合計30台弱くらいを保有している。

無人搬送車は稼動当初より主軸駆動部に生来の不具合を抱えており、根本的な改善(再設計)が求められていた。

実施企業:C社

機構概要

旧工場用でも新工場用でも無人搬送車主軸駆動部の細かな設計は異なるものの、主軸支持方式は基本的には同じ方式が採られている。

図1に駆動支持部概略を示す。

図1:駆動支持部概略
図1:駆動支持部概略

シャフト両端にはラディアルベアりングが配置され、そのすぐ内側にはタイヤが配置されている。左側には電磁クラッチ、右側にはタイミングベルトプーリーがレイアウトされている。

タイミングベルトプーリーから入力された駆動トルクは、直線部走行時には両輪に伝えられるが、コーナー走行時にはクラッチにてコーナー外側のタイヤのみに伝えられる。コーナー内側のタイヤには駆動トルクは伝わってはいない。電磁クラッチにて切り離された状態である。無人搬送車の直線走行、コーナー走行のガイドは床板下部に配置された下部ユニットが受け持つ。床板中央に幅40mmの溝がある。この溝の下部にレールが1本配置されており無人搬送車下部ユニットがラバーモールドベアリングでこのレールを左右から抱くような構成となっている。モノレールと類似の構造である。

下部ユニット
下部ユニット

不具合点

  1. 経験的にコーナー外側のラディアルベアリングが破壊される。
    新規に装着されたものが2年間ほど走行するとダメージを受けて破壊される。ひどい場合は硬球が脱落しリテーナが断裂している。
  2. 設計ミス
    • シャフト両端のラディアルベアりング固定方法
      このベアリングは一見、外輪が最外側からカバーにて固定されているように見えるが、実際には固定されてはおらず、内輪やシャフトと連れ回りし、外円筒面があたかもテカテカの光輝仕上げ面のような光沢となっていることがある。設計ミスと考えられる。
    • 従動輪4輪ラディアルベアりング固定方法
      主軸2輪の他に車重を支える車輪として主軸の前部に2輪、後部に2輪、計4輪の従動輪がある。これらの車輪のラディアルベアりング固定方法も前記と同じく外輪が固定されてはいない。これも設計ミスと考えられる。

破壊されたベアリングの調査(A社に依頼)

内輪ボールレース状況は外輪のそれよりもさらに滑らかなあたかも鏡面仕上げのような状態である。このような”光輝磨耗”はアキシャル方向(スラスト)からの力を受けた内輪によく見られると言われている。A社の解析ではスラスト45kg以上の力を受け続けたラディアルベアリングはこのような光輝摩耗状態になるとのことであった。図2参照

破壊に至る推定メカニズム

無人搬送車本体にはコーナーリング時に遠心力が掛かる。下部ユニットのラバーモールドベアリングがレールを確実に両側から保持してくれているのでスラストは±5~10kg程度しか主軸のラディアルベアリングには掛からない。(今回測定に先立つこと半年前にこの値は測定済みであった。±とはブラケットに対する曲げ方向荷重が内向きか 外向きかで極性が出てくる。)

しかしながら、下部ユニットのラバーモールドベアリングとレールの間にガタがあると(ラバーモールドベアリング自体または外皮であるラバーの経年劣化でガタが発生する)遠心力を支えてくれるベアリングは主軸のラディアルベアりングのみとなる。ラディアルベアリングは本来半径方向の荷重を受け持つベアリングであってスラストを受けるベアリングではない。このベアリングで受けることができるスラストは45kg以下であるが、破壊されたものはこれをはるかに超える力が掛かっていたと推定される。(ベアリングの外輪が固定されていないことによって、外輪連れ回りによる昇温も寿命を縮めている一因と考えられる。)

実施項目

上記の45kg以上とは一体いくらくらいの値なのか?これを計測することによって新規設計の基礎データ採りを行う。ラバーモールドベアリングはレールとの間のガタが調整できるよう偏芯設計が当初よりなされている。これを利用し、故意にガタを大きくしてコーナリング時の衝撃的なスラストの値を計測する。

実機計測状況
実機計測状況

測定結果

平均的にガタがある場合の最大荷重は無い場合の7割増し。予測された破壊メカニズムは正しいことが解った。

測定結果表 (単位:kg)
ガタあり
プラス側マイナス側
34.5-51.9
25.9-50.1
22.5-54.2
ガタなし
プラス側マイナス側
17.1-29.8
13.8-30.9
16.7-30.2
17.0-30.8

測定結果グラフ
測定結果グラフ

改造設計

  1. ラディアル6305LLB→複列アンギュラー5305 2RS(K社製)
  2. 主軸ブラケットの複列アンギュラーはカバーにて外輪固定、ラディアルはホロセット固定。従動論も外輪固定。

改造設計費用

8万円強/台 (動歪みアンプレンタル、動歪みゲージ、錘製作、治具製作費合計 12万円以下)


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